SAP-C02-112 · セクション 13 / タスク 3.2
Data Classification・Retention・規制要件を見直す
データの機密性 / データ分類 / 保持 / 規制要件 / 暗号化 / データ所在地 / ライフサイクル / Amazon Macie / AWS Audit Manager / AWS Artifact
既存環境のデータ保護を改善するとき、最初から暗号化方式やAWSサービスを変更するとは限りません。
まず確認する必要があるのは、
何のデータか
↓
どの程度機密性が高いか
↓
どのように分類されるか
↓
どれだけ保持する必要があるか
↓
保持期間中の変更・削除を防ぐ必要があるか
↓
どこへ保存・複製できるか
↓
どの保護が必要か
↓
保持終了後にいつ削除できるかです。
例えば、同じAmazon S3に保存されていても、
公開用画像
社内資料
顧客の個人情報
決済関連データでは、必要な保護や保持期間が同じとは限りません。
重要なのは、現在の設定から要件を推測するのではなく、データの性質と規制・業務要件から必要な状態を定義し、実環境との差を確認することです。
ゴール
既存環境について、
- データの機密性とデータ分類を区別する
- 分類ごとに必要な保護を整理する
- 保持要件と現在のデータ管理を照合する
- 自動削除と削除・上書き防止を区別する
- データ所在地の要件と実際のコピー先を確認する
- 暗号化がデータ分類・規制要件と一致しているか確認する
- Amazon Macieを機密データの発見へ利用する
- AWS Audit ManagerとAWS Artifactの役割を区別する
- 規制要件から必要な証拠やAWS側の資料まで確認する
ことを目指します。
1. データの機密性とデータ分類を分ける
データの機密性とデータ分類は関連しますが、同じ意味ではありません。
| 観点 | 主な意味 |
|---|---|
| データの機密性 | 漏えい・不正変更・喪失した場合にどの程度の影響があるか |
| データ分類 | 機密性・業務用途・規制などを基に、組織としてデータを扱う区分 |
| 規制要件 | 法令・業界規則・契約などから求められる条件 |
| 保持 | データを保持する必要がある期間と条件 |
| データ所在地 | データを保存・複製できる地理的な範囲 |
| ライフサイクル | 作成から利用、保管、アーカイブ、削除までの扱い |
例えば、
氏名
住所
生年月日などが含まれることが分かっても、その情報を組織内でどの分類へ割り当て、
誰がアクセスできるか
どの暗号化が必要か
何年間保持するか
保持中の削除を許可するか
どの地域へ保存できるかを決めるのは、組織側の分類ポリシーです。
2. 現在の保存場所から分類を推測しない
既存環境では、
このS3バケットは社内用
だから中身もすべて社内データといった前提が長期間残っていることがあります。
しかし実際には、
当初
一般的な業務ファイルだけ
↓
数年間運用
↓
個人情報
取引情報
サポートログ
エクスポートデータのように用途が変化する可能性があります。
そのため、リソース名や現在の設定ではなく、実際に保存されているデータを確認することが重要です。
3. Amazon MacieでS3内の機密データを把握する
Amazon Macieは、Amazon S3に保存されているデータについて機密データの検出を支援します。
例えば、
多数のAWSアカウント
+
多数のS3バケット
+
どこに機密データがあるか把握できていないという既存環境では、
Amazon Macie
↓
S3データを分析
↓
機密データの存在を把握
↓
分類・保護方針の見直しにつなげられます。
ここで重要なのは、Amazon Macieが組織の最終的なデータ分類ポリシーそのものを決めるわけではないことです。
Macieによる検出結果は、
どこに機密データが存在する可能性があるかを把握するための証拠として使います。
そのうえで、
組織の分類基準
規制要件
業務上の重要性と照合します。
また、MacieをすべてのAWSデータストアを横断する汎用データ分類サービスとして扱いません。中心となる対象はAmazon S3です。
4. データ分類から必要な保護へつなげる
データ分類は、ラベルを付けること自体が目的ではありません。
データ
↓
分類
↓
必要な保護へつなげます。
例えば組織が、
公開
社内
機密
制限付きという分類を使用している場合、分類ごとに、
アクセス条件
暗号化
保持期間
削除・変更の可否
保存可能な場所
監査要件
削除条件などが変わる可能性があります。
したがって、既存環境では、
現在の分類
↓
必要な制御
↓
実際の設定を比較します。
5. 暗号化は「有効か」だけで評価しない
保管中・転送中の暗号化方法そのものは既習です。
ここで見るのは、現在の暗号化がデータ分類や規制要件を満たしているかです。
例えば、
一般データ
→ AWSサービス標準の暗号化で要件を満たす
制限付きデータ
→ 組織が管理するキーが必要という社内要件があるなら、単に、
暗号化
有効を確認するだけでは不十分です。
データ分類
+
規制 / 社内要件
↓
必要な暗号化条件
↓
現在の実装を比較します。
KMSキーやTLSの具体的な設計をやり直すのではなく、要求されている保護と現在状態の不一致を探すことが中心です。
6. 保持は「できるだけ長く保存」ではない
保持要件では、
長く保存するほど安全とは限りません。
データによっては、
最低7年間保持という要件もあれば、
利用目的終了後は削除という要件もあります。
したがって、
必要保持期間
↓
実際の保持期間を比較します。
短すぎる場合
要件
7年保持
現在
3年で削除なら、必要な証拠や記録を早く削除する可能性があります。
長すぎる場合
削除すべきデータを必要以上に残していれば、
不要なデータ
+
不要な保有期間
↓
不要なリスクにつながる場合があります。
保持期間は、業務・法令・契約・プライバシー要件から決める必要があります。
7. 保持期間と「削除・上書き防止」を分ける
「7年間保持する」という要件でも、求められている内容を確認します。
例えば、
7年より前に
自動削除しなければよいという要件と、
7年間は
削除・上書きを
防止する必要があるという要件では、必要な制御が異なります。
自動削除時期を制御する
Amazon S3のライフサイクルでは、
いつ別のストレージクラスへ移行するか
いつ期限切れとして削除するかを管理できます。
保持期間中の削除・上書きを防止する
規制などでWORM形式の保持が要求される場合は、Amazon S3 Object Lockなどの保持制御を評価します。
S3 Object Lockでは、要求される保護レベルによって保持モードを区別します。
ガバナンスモード
↓
通常の利用者による削除・上書きを防止
↓
特別な権限を持つ利用者は
保持設定をバイパスできる
コンプライアンスモード
↓
保持期間中は
rootユーザーを含めて
保護対象バージョンを削除・上書きできない
↓
保持期間の短縮もできないしたがって、
管理権限を持つ利用者でも
保持期間中に削除できないことが必要という規制要件なら、コンプライアンスモードが決定打になります。
整理すると、
いつ削除するか
→ ライフサイクル
保持期間中に
削除・上書きを防ぐ必要があるか
→ Object Lock
特別な権限による
バイパスを許容するか
→ ガバナンスモード / コンプライアンスモードを分けて判断します。
8. データ保持とバックアップ保持を混同しない
同じ「保持」という言葉でも責任が異なります。
データ保持
→ そのデータ自体を
どの期間・条件で保持するか
バックアップ保持
→ 復旧のためのコピーを
どの期間残すかです。
例えば、
業務データを7年間保持という要件があるからといって、
7年間分のすべてのバックアップを保持と自動的に決まるわけではありません。
逆に、
バックアップがあるから
本体データの保持要件を満たすとも限りません。
ここでは、復旧設計ではなくデータそのものの保持要件を扱います。
9. 保持要件をライフサイクルへ反映する
保持要件が決まったら、実際のライフサイクルと一致しているか確認します。
例えばAmazon S3では、
作成
↓
利用
↓
必要に応じてアーカイブ
↓
保持期限
↓
削除という流れをライフサイクルルールへ反映できます。
重要なのは、
ライフサイクルを設定していることではなく、
必要な保持・削除条件と
ライフサイクルが矛盾していないことです。
例えば、
規制
7年間はデータを残す
S3 ライフサイクル
3年後に期限切れなら不一致です。
一方で、
7年間は削除・上書き禁止まで求められている場合は、ライフサイクルを7年後に設定するだけでは、その保持要件を完成できません。
保持中の保護
+
保持終了後の削除を別々に確認します。
10. データ所在地はすべてのコピーを見る
規制や契約によって、
特定の国
特定の地域
指定されたAWSリージョンだけでデータを扱う必要がある場合があります。
ここで確認するのはプライマリだけではありません。
例えば、
プライマリデータ
東京
レプリカ
シンガポール
分析用エクスポート
米国
バックアップコピー
別リージョンという構成なら、
メインデータが東京にあるだけでは所在地要件を判断できません。
確認対象は、
保存先
複製先
エクスポート先
処理先です。
11. データ所在地と暗号化は別要件
次の2つは同じではありません。
暗号化されていると、
許可された地域に保存されているです。
例えば、
強力に暗号化
+
許可されていないリージョンへ複製していれば、暗号化要件は満たしていても、所在地要件を満たしているとは限りません。
逆に、
許可されたリージョンだけを使用していても、必要な暗号化が欠けていれば別の不備があります。
データ所在地
暗号化
アクセス制御
保持は、それぞれ必要な条件として確認します。
12. 規制要件はAWSサービス名へ直接変換しない
例えば、
PCI DSS対象
HIPAA対象
個人情報を扱うという情報だけから、
このサービスを使えば準拠とは判断しません。
まず、
どのデータが対象か
↓
何を要求されているか
↓
現在の制御はどうなっているか
↓
何が不足しているかを確認します。
また、AWS側のコンプライアンスと、利用者側のコンプライアンスは同じではありません。
AWSが特定の認証を取得していることだけで、利用者側の設定や運用まで自動的に準拠するわけではありません。
13. AWS Audit Managerは「自社側の証拠」を整理する
AWS Audit Managerは2026年4月30日以降、新しいAWSアカウントではセットアップできません。既に設定済みのアカウント・リージョンでは継続利用でき、Organizationsの管理アカウントで設定済みの場合は既存組織のメンバーアカウントを評価へ追加できます。AWSは新規のコンプライアンス管理でAWS Config Conformance Packsの利用を案内しています。
ただし、AWS Config Conformance PacksはAudit Managerと完全同等ではありません。AWS Configは主にConfiguration Itemを証拠として扱い、Audit ManagerのようにCloudTrailやSecurity Hub CSPMなど複数ソースの証拠を同じ方式で収集したり、同等の監査レポートを提供したりするわけではありません。
規制や監査では、
暗号化しているはず
アクセス制限しているはずではなく、
その制御が実際に動いていることを示す証拠が必要になる場合があります。
AWS Audit Managerでは、評価の対象となる制御について、AWS環境から証拠を継続的に収集・整理できます。
概念的には、
規制 / 監査要件
↓
評価する制御
↓
AWS環境の証拠
↓
レビューという役割です。
例えば証拠の元には、
AWS Config
AWS Security Hub CSPM
AWS CloudTrail
AWS APIなどがあります。
重要なのは、AWS Audit Managerが法律への準拠を自動的に保証するわけではないことです。
監査を支援するための証拠収集・評価を効率化します。
14. AWS ArtifactはAWS側のレポートや契約を確認する
AWS Artifactは、AWSのセキュリティ・コンプライアンス文書や契約を確認するときに使用します。
例えば、
SOCレポート
ISO関連文書
PCI関連文書
AWSとの契約などです。
役割を整理すると、
| 要求 | 主な候補 |
|---|---|
| S3内で機密データを発見したい | Amazon Macie |
| 設定済み環境で、自社AWS環境の制御証拠を継続収集・整理したい | AWS Audit Manager(既存利用) |
| AWSの監査・認証レポートを確認したい | AWS Artifact |
| AWSとの対象契約を確認・管理したい | AWS Artifact |
| 新規アカウントでConfig Rulesをまとめて展開し、準拠状態を監視したい | AWS Config Conformance Packs |
AWS ArtifactからAWS側の監査資料を取得しただけで、
自社のAWS環境も準拠しているとは判断しません。
15. Macie・Audit Manager・Artifactを混同しない
3サービスは、どれもセキュリティ・コンプライアンスに関係しますが責任が異なります。
Amazon Macie
↓
S3データ内の
機密データ発見
AWS Audit Manager(設定済み環境)
↓
自社の制御に関する
監査証拠の収集・整理
AWS Config Conformance Packs(新規設計の候補)
↓
Config Rulesをまとめて展開し
リソースの準拠状態を監視
AWS Artifact
↓
AWS側の
コンプライアンス資料・契約試験では、
何を知りたいのか
どの証拠が必要なのかを確認します。
16. 既存環境では「要件 → データ → 設定」の順で見直す
例えば既存環境で、
すべて7年保持
すべて同じ暗号化
すべて東京リージョンという統一ルールがあっても、それが正しいとは限りません。
必要なのは、
規制・業務要件
↓
対象データを特定
↓
データ分類
↓
保持
保持中の削除防止
暗号化
データ所在地
ライフサイクル
↓
現在設定と比較
↓
不一致を修正という流れです。
現在の設定を正解として要件を合わせるのではなく、要件を基準に現在設定を評価します。
17. 混同しやすいポイント
| 誤りやすい判断 | 正しい考え方 |
|---|---|
| Macieがデータ分類ポリシーを決める | Macieの検出結果を組織の分類へ利用する |
| すべて長期保存すれば安全 | 保持・削除要件へ合わせる |
| ライフサイクルを設定すれば規制保持をすべて満たす | 削除時期と保持中の削除防止を分ける |
| ガバナンスモードならどの管理者も保持を解除できない | 厳格な変更不能保持ではコンプライアンスモードを評価する |
| バックアップがあればデータ保持を満たす | データ保持とバックアップ保持を分ける |
| プライマリデータが東京にあれば所在地要件を満たす | 複製・エクスポート先も確認する |
| 暗号化済みなら所在地は問わない | 暗号化と所在地は別要件 |
| Artifactが自社環境を監査する | AWS側の資料・契約を提供する |
| Audit Managerが準拠を保証する | 制御の証拠収集・評価を支援する |
| 新しいAWSアカウントでもAudit Managerをセットアップできる | 2026年4月30日以降は新規アカウントでセットアップできない。新規設計ではConformance Packs等を要件に応じて評価する |
18. SAP-C02での判断手順
1. 対象データは何か
↓
2. 機密性・分類は何か
↓
3. 適用される業務 / 規制要件は何か
↓
4. 必要条件を整理
保持期間
保持中の削除・上書き防止
必要な保持モード
暗号化
データ所在地
ライフサイクル
↓
5. 実環境と比較
↓
6. 不明なS3データは
Amazon Macieで把握
↓
7. 監査・準拠状態の管理が必要なら
├─ Audit Manager設定済み環境
│ → AWS Audit Managerの継続利用を評価
└─ 新規アカウント / 新規設計
→ AWS Config Conformance Packs等を要件に応じて評価
↓
8. AWS側のレポート / 契約が必要なら
AWS Artifact
↓
9. 不一致を改善まとめ
データ保護を見直すときは、
現在の保存設定
↓
必要要件を推測ではなく、
データの機密性
↓
データ分類
↓
規制・業務要件
↓
保持期間
保持中の削除・上書き防止
暗号化
データ所在地
ライフサイクル
↓
現在状態と比較の順で考えます。
特に保持では、
いつ自動削除するか
→ ライフサイクル
保持期間中に
削除・上書きを防止する必要があるか
→ Object Lock
特別な権限による
保持のバイパスを許容するか
→ ガバナンスモード / コンプライアンスモードを区別します。
サービスの役割も分けます。
Amazon Macie
→ S3内の機密データを発見
AWS Audit Manager(設定済み環境)
→ 自社環境の監査証拠を収集・整理
AWS Config Conformance Packs(新規設計の候補)
→ Config Rulesをまとめて展開し準拠状態を監視
AWS Artifact
→ AWS側のコンプライアンス資料・契約特に、
データ分類
≠
Macieによる自動決定
保持
≠
バックアップ保持
ライフサイクル
≠
削除・上書き防止
暗号化
≠
データ所在地
AWS側のコンプライアンス
≠
利用者側のコンプライアンスを混同しないことが重要です。
主要AWS公式資料
- AWS Certified Solutions Architect - Professional (SAP-C02) 試験ガイド — Task 3.2
- AWS — データ分類
- Amazon Macie — 機密データの検出
- Amazon S3 — オブジェクトのライフサイクル管理
- Amazon S3 — S3 Object Lockによるオブジェクトのロック
- AWS Audit Manager — 証拠収集
- AWS Artifact — セキュリティおよびコンプライアンス文書 / 契約
- AWS — データプライバシー
- AWS Audit Manager — availability change / AWS Config Conformance Packsへの移行検討
- AWS Config — Conformance Packs